鈴木美紀 | 日記 | トム・フォード監督「ノクターナル・アニマルズ」現実と小説、愛と復讐

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鈴木美紀 の日記

トム・フォード監督「ノクターナル・アニマルズ」現実と小説、愛と復讐

2017.12.13

今秋、日本では良作スリラー映画が相次いで公開された。ライフル業界とロビイストの対立を描く「女神の見えざる手」をはじめとして、エセ宗教を通じて善悪、真偽の臨界点を見せつけた「我は神なり」、「ソウ」シリーズ7年ぶりの新作「ソウ:レガシー」、さらにはいずれも米国で記録的なヒットとなった「ゲット・アウト」「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」と、枚挙に暇がない。そんな中ミニシアター系列のランキング上位に居続けているのが、トム・フォード監督(脚本兼任)の長編2作目となる「ノクターナル・アニマルズ DVD」だ。本作は第73回ヴェネチア国際映画祭では金獅子賞を最後まで争い、審査員賞グランプリを獲得。英国アカデミー賞では受賞には至らなかったものの、「ラ・ラ・ランド」に次ぐ9部門ノミネートの快挙を成し遂げた。
アートギャラリーのオーナーであるスーザン(エイミー・アダムス)は夫とともに経済的には恵まれながらも心は満たされない生活を送っていた。ある週末、20年前に別れた元夫のエドワード(ジェイク・ギレンホール)から小説原稿「夜の獣たち(Noctural animals)」が届く。彼女に捧げられたその小説は、暴力的で衝撃的な内容だった。
それを読み進めていくうちに感銘を受けたスーザンは、エドワードと過ごした日々を思い出す。自分が送ろうとしていた生活、エドワードにした仕打ち、現在の心を失う時間…。彼はなぜ小説を送ってきたのか、エドワードの真意にスーザンは迫っていく。オリエント急行殺人事件 DVD
作中に現れる「REVENGE」のアートが示す通り、作品の提示がエドワードからスーザンへの「復讐」であるとする見方がまず可能だ。「夜の獣たち」の作中では、主人公であるトニーをエドワードと同一の役者、ジェイク・ギレンホールが演じている。彼は 「夜の獣たち」の中でアーロン・テイラー=ジョンソン演じるサイコパス男・レイに妻を奪われ、娘を殺され、深い絶望に落ちる。これはエドワード自身がスーザンに受けた仕打ち――突然自分のもとを離れ、他の男のもとに行き、娘を堕胎される――そのものだ。スーザンの回想シーンのセリフにもあったように“自分のことばかり書く”作家であるエドワードが「君との別れから着想を得た」として、自分に起こった悲劇をメタファーに物語を書き起こし、スーザンへささげた。当然すぐれた批評家であるスーザンは、これが自分の過去に対する告発だと気付いているだろう。サンダーマン シーズン3 DVD
 そしてラストシーン、エドワードは待ち合わせに現れなかった。小説家としてついに成功した自分を、創作を忘れアートギャラリーのオーナーとして空虚な人生を生きるスーザンに見せつけ、再度の愛をちらつかせながらも置き去りにする、という「復讐」。お前は俺を苦しめたのだから、次はお前が苦しむ番なのだとでもいうように、スーザンの耐え難い悲痛に満ちた表情で物語は終わる。

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